(1)新聞広告を改めて見直してもらうために

朝日新聞社
製作担当補佐室
(生産管理プロジェクト)
村瀬 岳彦 製作担当付

 朝日新聞社がFMスクリーニングの開発に着手したのは2003年秋のこと。同社のカラー広告に対して、とくにヘビークライアントから不評の声があがっていたのが大きな理由だ。朝日新聞社製作担当補佐室の村瀬岳彦氏は、着手当時を振り返って次のように語ってくれた。
 「これまでの新聞広告は、商業印刷とくらべると品質の点でどうしても劣ります。高品質ニーズに応えられなかったために、色の表現力を大切にする化粧品会社など、新聞広告から離れていったクライアントさんもかなりあります。かつてのように、ただ単にマスメディアに広告を出稿すれば商品が売れるという時代ではなくなりましたからね。離れていったクライアントさんに、もう一度新聞印刷を見直してもらうためには、マーケティングメディアという観点で新聞を捉えて、品質アップを図る必要があったのです」
 そんな中で発足されたのが全社紙面品質向上チームだ。印刷だけではなく、編集から映像、資材、製作、広告などを含めた組織横断的なチームで、全社的に品質の向上に努めようというもの。従来の新聞印刷に限界を感じていた、さまざまな部署のスタッフの集まりだった。

(2)CTP導入がきっかけとなったFMスクリーニング

 これまで新聞印刷の色の表現力を上げるために、各製版会社でもさまざまな試みを繰り返してきたと言うが、従来のAMスクリーニングでは限界があったようだ。そこで浮上したのがFMスクリ−ニング。
 CTPが京都工場に導入されたことがそのきっかけとなったと村瀬氏は言う。
 「品質向上チームが立ち上がった時期に、ちょうどCTPの導入プロジェクトが同時進行的に動いていたのです。それまでCTPに対するイメージは“人員削減”“時間短縮”など、どちらかといえばネガティブなものだったのですが、CTPが成し得る付加価値の側面をいかに具体化していくか? しかも品質向上という目標を達成し得るものは? そんな問いに答えるアイデアのひとつがFMスクリーニングでした」
 商業印刷は、元々150線とか200線で印刷されているので、FMスクリーニングで印刷してもそれほど大きな差は出ないが、その点、新聞は100線以下で製版されていたので、FMによる品質向上のインパクトが大きかった。CTPによって刷版への画像再現性が向上することにFMスクリーニングを加えることで、飛躍的な品質向上につながったというわけだ。

(3)テストの連続の末につかんだ確かな手ごたえ

 品質向上チームが最初に行ったことは、FMスクリーニングの基礎データ採取を兼ねた全工場のテスト印刷と印刷特性の調査だった。2ヵ月を費やしてテスト印刷の目的と方法を各工場スタッフに説明し、工場によって異なる設備や資材の把握、照明や色見台を含めた職場環境の調査などを済ませた。工場間のバラツキを少なくすることは新聞広告の大きな課題のひとつだが、その難しさについて村瀬氏はこう語る。
 「FMスクリーニングで印刷する場合、輪転機側で一番大切なのは資材の調整なんです。インキや紙はメーカーを1社に絞っているわけではなく、工場によって違うものを使用しており、とくにインキはFMにそぐわないものもありますからね。何度かのテストの中で検証を行い、FMに適したインキへの切り替えを行いました」
 そして2004年1月に築地工場で本格的なテスト印刷を開始。半年間のテスト印刷で数々の項目について検証を行った結果、「これなら行ける!」という実感を得た。そして同年7月に大阪と名古屋管内の工場でもテスト印刷をスタートさせている。

 この結果、印刷業の分類は製造業からメディア・コンテンツ産業へ変わり、支援策も護送船団方式から活力ある企業を支援する方式に変わった。また、IT化によって行政サービスのあり方が変わりつつあるが、その中で印刷業界にとって最大の印刷物発注者である官公庁の電子発注が本格化しつつある。

(4)本番印刷で得た大きな反響と効果

FM新聞広告例

 8月には入念なテストの末、築地、世田谷、座間、船橋、京都の5工場で初めて本番印刷を行い、8月28日付けの朝刊にNECの環境広告を掲載。これが日本初のFM新聞広告である。色合い的にも工場間のバラツキが少ない満足のいく結果が得られた。
 「業界の反響は想像をはるかに超えたものでした。とくに広告関連会社からの反応は機敏で、数多くの制作会社からFM広告用の画像処理についての問い合わせがありました」と村瀬氏は言う。その後、ティファニーのFM広告では、色再現が際立つ白色度の高い新聞用紙を使用。AMスクリーニングでは表現できない鮮やかさは、クライアントからも高い評価を受けた。
 現在この方法は、「FMプレミアム」という商品名でホームページにも紹介されている。化粧品やブランド品の広告など、デリケートなカラー表現を重視するクライアントニーズにも充分に応えられると村瀬氏は自信をみせる。新聞印刷の品質に諦めを持ち、離れていったクライアントを再び引き戻したいと言う。
 一方、FM印刷を行う印刷現場は、通常のAM印刷と比べて特に調整が難しくなったとの声は聞かれなかった。さらにインキマイレージの大幅減も付帯的なメリットとして確認されている。もちろん絵柄によっても異なるが、絵柄の多い重い絵柄では、その差が大きく、その面でのコスト低減にも大きな効果が期待できる。

(5)FMスクリーニングにおける印刷機の役割

 FMスクリーニングの好結果が出たことで、新聞印刷に新しい可能性が見えてきた。しっかりしたデータであれば、既存のAMスクリーニングでもかなり広い色を再現できるが、FMスクリーニングでは、さらにその色域を広げることが可能だ。現状では、FMスクリーニングによる印刷を行えるのはまだ一部の工場だが、CTPの導入が済みしだい順次対応を進めて行き、2008年にはすべての工場で実施できるようにするのが目標だ。
 さらに、この成果を朝日新聞社だけに止めておいても、新聞カラー広告の需要増に繋がらないという判断から、朝日新聞社が得たノウハウを各社に無償で公開しており、現在は多くの新聞社や新聞広告のカラー原稿を制作する広告代理店や製版会社への対応で結構多忙だと言う。
 最後にFMスクリーニングにおける輪転機の条件を村瀬氏に伺った。
 「輪転機を複数セット導入した時に、それぞれに固体差がなく標準で印刷できることが理想ですね。そのうえで定期的なメンテナンスにより、常に一定の能力を発揮できることが大切ですね。その点、三菱重工さんの“DIAMONDSTAR”は信頼できる輪転機です。しかもドットゲインが少なく、高速印刷でも安定した印刷品質が得られています」