永年の習慣で、お客さまも印刷会社も「色」に関しての”コミュニケーション“は「暗黙の了解」で済ませてきました。それはカラー印刷の歴史の上で、完全な色再現が不可能という技術問題があったものの、「色」は個人の主観に頼るもので計数化しにくく、そのイメージの伝達も漠然としたものにならざるを得なかったためです。しかし印刷におけるトラブルやクレームの原因は「色」に関するものが多く、その解決法がこれまでも地道に模索されてきました。
 色校正にもイメージ伝達のミスがつきものです。校正を見る人は頭の中に自分なりの「色」を記憶色として持っておりますが、それは頭の中で作り上げたもので正しいイメージはないのです。山に太陽があたっている写真でも「朝日」と「夕日」には違いがあり、製版技法としてもノウハウがあるのですが、見る方は主観で判断するので、校正刷りや印刷物と、頭の中のイメージを比較することとなり、ミスマッチが生じることがあります。
 日常、次のようなことはないでしょうか。初校を見ると自分の考えていたイメージと「少し違う」ので修正を指示する。再校が出てきて見ると、逆のイメージに転んでしまったので、さらに修正を指示し、三校を見る。まだ自分のイメージと違っているが、もはやどれが正しいのかわからなくなり、再び初校を良く見ると三つの中で一番良いので、「初校に戻す」と赤字を入れて責了にした、というようなことです。製版・印刷会社は初校で自信作を出さなければなりません。オペレータも色を「取りあえず」分解して出すようなことはありません。初校責了を目指すのがベストだからです。つまり初校はそれほど発注者のイメージとかけ離れたものは出ないはずなので、その修正で方向性を間違えると迷路をさまよってしまうことになるのです。まさに「色の道」は厳しいのです。
 
 このように製版時に何度も校正を見て微調整をしてきたにもかかわらず、一般的に印刷物ができ上がってからはその違いにはあまり言及されないようです。印刷台ごとに少しずつ異なるインデックスの平網や、見開きページの色、初版と再版の違い、そして校正と本刷りの違いなども、お客さまと印刷会社の営業マンの「暗黙の了解」で済ませているのではないでしょうか。
 しかし印刷物の試作品であるはずの校正と大量生産される製品(印刷物)に違いがあるということは、現在の品質管理を重要視する環境下では許されない状況になりつつあります。ISO9000シリーズを取得したお客さまはもちろん、印刷会社自身も製品として印刷物のバラツキを押さえ込まなければなりません。人間の経験と勘に頼ってきた「色」の世界は、プリプレス側から徐々に数値コントロールが可能になって来ており、その実現の手法がCMSなのです。
 
 デジタルのメリットは数多く語られていますが、決して手放しで喜べないものもあります。
 例えば、これまでのプリプレスでは組版・製版という各工程内では各作業が並行処理され、工程の出口で品質保証がされていました。つまり版下や製版フィルムが検査され、次工程に送られていったのです。写植が剥がれたり曲がっていないか、トンボは入っているか、ストリップフィルムで正しく訂正されているか、フィルムの濃度は適正かなど、ベテランの作業者が適時チェックをしていました。しかしデジタル工程ではすべてがデータというブラックボックスにあって、フィルムやCTP版に出力してはじめて検査ができます。途中経過のプリンタから出したハードコピーでは最終出力のRIPによるエラーが発見できないので、最終的に出力のRIPによるエラーが発見できないので、最終的に印刷物で確認することになります。
 また、工程管理や品質管理の上でもデジタルは不自由です。
 例えばフィルムから刷版するアナログ工程と、CTPで刷版するデジタル工程では、管理方法が異なります。アナログ工程は原稿がフィルムなので、適正な製版フィルムであればどこに持っていっても刷版ができます。つまり会社や場所・版種を選ばずに刷版ができますが、デジタル工程のCTP出力では最初から明確な印刷設計がされていることが絶対条件になります。
 すなわち、機械毎に異なる版サイズや咥え寸法、印刷機固有の特性にあわせたキャリブレーション・カーブの選択など、CTP出力のための数値情報が事前に必要になるため、CTP版は出力時にどの機械で印刷するかがわからなければ出力できません。
 しかし実際にはそれ以上にデジタルによる「特典」が用意されています。CMSやCIP3などはデジタルなしでは構築が不可能であり、さらに印刷物の制作工程の標準化は、デジタルによるデータの数値化や計測・管理なしには成り立たないのです。

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