酒田市全戸に無料配付される月刊誌『スプーン』と新社屋移転記念特別増刊号。
佐藤社長は現在の社会状況をこう語る。
「わが国では、多くの情報は中央から発信されます。しかし、地方の文化を担う印刷業を営む私たちとしては、こちらからも発信したいのです。しなければなりません。庄内の文化を表現し、地域の方々に何か還元して、そこから新しい仕事が生まれてくる構造を構築したいと模索していました」
その具体的なかたちが月刊『スプーン』となる。平成3年4月に第1号を創刊して以来、酒田市民をはじめ、地域住民から暖かい支援を得ている月刊誌『スプーン』は、庄内地方に密着したテーマ、文化情報などを発信するタウン誌である。企画、編集から印刷・製本まで、その技法やきめの細かさで、一般雑誌の水準をはるかに越えるものであり、同社が担う文化事業ののシンボルである。
佐藤社長は庄内の魅力をこう語る。
「庄内には鳥海山・月山があり、お米も美味しく、こんなに素晴らしい地域はないと思っています。わずか10万人の市民でそれを育んでいるわけですが、もっと多くの人に酒田を知ってもらって、酒田に来てもらって、そして、良ければ住んでもらいたいと願っています」
この11月には『スプーン』はNPO法人(特定非営利活動法人)の設立を申請し、さらに充実した体制でパワーアップする。
「無料配布ですから編集・印刷・配達の費用を賄うため広告を掲載していますが、当初は広告のお願いが大変でした。10年目を迎え、今やスプーンに広告が載ることが酒田で企業としてのステータスだと言われるまでになりました」
38年の歴史を誇った「みちのく豆本」
新社屋移転を記念して、2002年5月、『スプーン特別増刊号』が発刊された。100ページを超える美しい雑誌の中身は、後に紹介する「文化講演会」に招いた講師の方々のお話をまとめたものがあり、同社の文化毒薬事業の歴史が感じられる。『スプーン』のページを開くと、庄内の魅力が伝わってくる。
同社の文化活動への取り組みは月刊『スプーン』に止まらない。昭和51年、酒田市は市街地の半分近くを焼失した「酒田大火」にみまわれた。この時期に沈んでいる市民を活気づけたいという思いからスタートしたのが、「文化講演会」である。これも20数年続いている。第1回の米倉斉加年氏から始まり、第23回の黒柳徹子氏まで多彩な方々が酒田市を訪れている。
こうした文化への関わりについて、佐藤社長はさらりと語る。
「庄内という特別に美しい豊かな土地にあって、100年以上も商いをさせていただいています。庄内の文化が発展していく何らかのお役に立てばと、そう思っています」
38年間に及び、130冊が刊行された「みちのく豆本」に対する採算を度外視したお手伝いも、同社ならではの文化への情熱の表れである。